椎名林檎

 何を隠そう、私は椎名林檎ファンである。別に隠してもいないが、「歌舞伎町の女王」を聞いて涙し、「長く短い祭」で心躍らせ、「おとなの掟」を一度聴いて彼女の作品だと確信し、「目抜き通り」で彼女の底知れぬ才能に驚いた。まあ、いたってよくいる林檎ファンの一人である。その彼女のインタビュー映像満載のテレビ番組「関ジャム」を見て、さらにファンになった。

 私は音楽の知識がほとんど無い。いわゆる「楽理」というものは習ったこともないし、理解できそうもない。ところが、番組でヒャダインや大整さんが専門的なコード進行やBメロについて解説しているのをきいて、彼女が楽理にも精通しているプロフェッショナルという事に改めて気づいた。

 意外とアーティストと言っている割には、楽器が弾けないとか楽譜が書けないなどと言っているひとがおおい。最近のテクノロジーや分業制の中でそういった人々もいわゆる感性だけで作曲が出来るようになっているようだ。しかし、彼女はそういった人々とはまったく違う。

 どこの世界でも同じだが、観客と演者というのは同じ空間にいてもまったく違った世界で生きている。そして、観客は演者の世界のほんの一部を見ているに過ぎない。小説を例にしても、作者の様々な格闘の末に出来た成果物を見ているに過ぎない。コンビニの店員にしても、我々が見ている彼らの仕事は、ほんの一部でしかない。その一部を切り取って、良いとか悪いとかいうことは滑稽ですらある。

 彼女は「楽理がわからない女子のサントラになれば」といっているが、私にとってもおなじだ。私も感じるがままに彼女の曲を聴いている。しかし、ほんの少し舞台裏をみれたことで、さらに彼女の魅力が増した。彼女は私が知っているよりもずっと深く、ずっと大きい存在なのだ。