イノベーション立国論 出口治明

 今日の朝日新聞に面白い記事があった。洞察力の深さに感心したので、備忘録として書き記しておく。

 平成の30年間に、日本の国際競争力は1位から30位に落ちました。評価額が10億ドル以上の未上場企業『ユニコーン』は、世界に380匹いるのに、日本にはたった3匹。米国には200匹弱、中国には100匹弱います。ユニコーンの経営陣はほとんどが多国籍。労働生産性はその国の大学院卒の割合に比例するというデータがあるのですが、日本の大学院進学率は非常に低い。先進国の中では日本は『低学歴社会』なんです」

 労働生産性が大学院卒の割合に比例するというデータがあるそうだが、本当だろうか?日本の大学院のレベルではちょっと違うのかなあと思うが、それ以上に意外だったのは日本が大学院進学率が低いと言うこと。

 

●日本が今でも製造業に支えられているという幻想に対して

 「製造業のウェートはGDPで2割、雇用は17%しかありません。このデータで、どうして支えられていると言えるのでしょう。しかもその割合はどんどん下がっています。新しい産業を生み出す以外に、解はないのです」

●経済成長などしなくてもいいという幻想に対して

 「日本は先進国で最も高齢化が進んでいます。高齢化が進むとどうなるか。出費が増えます。ということは、その分成長して、稼がないと貧しくなる一方です。だからこそユニコーンが必要なのです」

●大学のレベルが低いのは誰のせい?

  「企業が100%悪い。企業の採用基準に『成績』がないのですから。さらに、なまじ勉強したやつは使いにくいとかアホなことを言って、大学院生を採用しません。経団連全銀協の会長が『優が7割以上なければ、面接しない』と言えば、みんな勉強します。グローバル企業はハーバードを出ていても、成績が真ん中以下だったら歯牙(しが)にもかけません。こんな人間を採用しても、組織の中で上手に泳ぎ回るだけで、まともな仕事をしないと思うからです」

●新しいアイデアが生まれないのは誰のせい?

 「日本の企業が面接で見ているのは、素直で我慢強く、協調性があって言うことを聞くかどうかです。これは、製造業では必要な人材です。でもこういう人間をいくら集めても、新しいアイデアは出ないし、新しい産業は生まれません」

 「頭は疲れやすいのです。2時間単位で3、4コマが限界だという知見は、世界中の脳科学者がシェアしている。だからグローバル企業は残業しません。日本生産性本部の役員に聞いたのですが、米国の学会に行くと、社員をどう使えば気持ちよくアイデアを出してくれるのか、よく脳科学心理学の話をしているそうです。ところが日本に帰ってくると、『報・連・相』のような根拠のない精神論の話をしていると」

●終身雇用制度がいいのでは?

 終身雇用というのは、高度成長と人口の増加がなければ成り立たないシステムなんですよ。なのに日本では、クビを切るのは良くないという幻想が社会を支配している。僕は『左遷』された経験がありますが、旬な時期に仕事がないことほどつらいことはない。クビを切ることこそが思いやりなんです。うちではいらないが、もう1回広い世界でチャレンジしてごらんと。

 

 製造業で言われたことだけを黙々と長時間こなす人材はもう必要がなくなってくるようだ。しかし、日本人の「忍耐」「素直」などへの過度な評価は変わらないだろう。それが、日本人の美徳とすら考えている人が多いから。その一方で、イノベーションを支える人材は必要になってくるだろう。

 それにしても出口さんの話は明解であり、心理を突いていると思う。昨今は経済界の重鎮達が教育再生会議などで床屋談義を繰り返し、英語が使える日本人やら、思考力の育成などと叫んでいるが、彼の話を総合すると、そんなご託を並べる前に企業風土を変える必要があるようだ。じり貧の日本を支えていくのは誰なんだろうか?