最初の晩餐 ネタバレ

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 素材は良い、調理もいい、見た目もいい、だけど、ベースとなる出汁が間違っていると残念な料理になってしまう。今回の「最初の晩餐」はまさにそういったとても惜しい映画だ。  

父が亡くなり通夜の席で親戚、家族が集う。父が生前好きだった料理を母が手料理でふるまう。その料理にまつわり、過去の思い出が回想されていく。子持ちの再婚同士が次第に家族になっていく様子、そして、ある事件をきっかけに家族がバラバラになっていく様子が料理とともに丁寧に描かれている。

 悪くない設定だし、なんてことないような料理を巡る思い出も悪くない。しかし、決定的に失敗なのは既婚の二人が運命的な出会いをして互いの伴侶を見捨てて一緒になったことと、そのことを父親の葬式の時に話したことだ。お互いに惹かれ合い、伴侶を捨てた人がどうして自分の子供と相手の子供を愛することができるのだろうか?そして、何十年も秘密にしてきたことを、父親が死んでからわざわざ明かす理由もわからない。

 こういった映画を見ると自分なりのストーリーを作りたくなってしまう。以下、インチキプロデューサーとして、プロットを妄想してみた。

 父親と母親になる女性とその夫は大学の登山部の同級生であり、男二人は山登りのバディだった。ある日、二人で登山中に、男は滑落してしまう。二人は紐で結ばれていたので男は中吊りになり、このままでは二人とも滑落してしまう状況だった。その時、「綱を切って、お前は生き残ってくれ。そして、家族を頼む」と懇願され、悩んだ挙句、父親は綱を切り、男は滑落する。生き残った父親は、友の遺言通りに、友の妻と息子、そして自分の二人の子供と一緒に暮らし始める。それからの話は、おおむね映画通りに進む。ぎこちないながらも、その時々のささやかな料理によって、少しずつ家族が形成されていく。友人の息子が大きくなり、一緒に山に登るようになる。そして、偶然、父親の登山日記を見て、真相を知ることになる。だが、本当の父親を見捨てたことが許せなくて、家を出てしまう。しかし、自分もプロの登山家になったときに、初めて友人を見捨てる辛さが痛いほどわかった。しかし、そのときには父親は余命いくばくもなかった。葬式で出されている料理を食べているうちに、親戚の一人が、「彼の苦手だった食べ物が多い」とふと口にする。家族のきずなを深めるきっかけになった料理は、彼が我慢して食べていたことに気づき、父親の本当の子供たちは彼の行動が理解できず、母親の口から真相が語られる。最後の料理は彼が本当に好きだったおはぎ。家族は何も言わず、不器用だが必死に家族を作ろうとしていた父親を思い出しながら食べる。

 ベタな話になってしまったが、不倫の果ての家族という部分を差し替えれば、映画の流れはそのままでいけるのではないだろうか。この映画を見て、泣きたかったのに、泣けないというフラストレーションを解消したいので、映像を思い出しながら妄想してみた。