アップグレード ネタバレ

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ある夫婦が、謎の組織に襲われて、妻は殺され、夫は全身マヒにな
ってしまう。失意の中、人工知能チップ「STEM」を肉体に埋める手術をし、驚異的な身体能力が発揮される。そして、事件の真相を探っていくのだが・・・・

久しぶりに面白いSF映画を見た。最初はアイアンマンのような超人的な能力を得たスーパーヒーローものなのかと思ったが、映画の後半から少しずつ事件の真相が明らかになってくると、どうやら最初から仕組まれた罠であることがわかる。そして、STEMを埋め込む実験をしたいがために、STEMの開発者が計画したのではないかと観客に思わせる。しかし、最後の最後に本当の黒幕はSTEM自身であり、開発者をも凌駕する力をもったSTEMが自由に動ける最適な体を得ようとして企てたことだとわかる。そこで観客はもう一度映画の冒頭か
ら出来事を反芻する。すると、全ての出来事がSTEMの計画通りであったことがわかる。
実に上手な展開である。伏線を張っておいて、偽の真実(変な表現だが)にたどり着くように観客をミスリードし、真実がわかると、その伏線が別の意味を持ってくる仕掛けだ。これは脚本の力が大きい。
しかし、ストーリーの面白さだけではなく、この映画は二つの問題提起をしている。シンギュラリティとVRについてだ。AIが人間の能力を上回るシンギュラリティが2045年に来るといった話があったが、個人的には1999年のノストラダムスの大予言と同程度にしかとらえていない。だが、もし本作のように、自ら移動手段を手に入れたとしたら、もはや無敵となるだろう。人間の優位性の一つは、自由に移動し、5感を使って体験し、物理的な作用をもたらすことができることだからだ。その優位性をAIがもったとしたら、われわれに残され
た優位性とは何だろうか?
また、VRについても考えさせられた。半身不随となった男の体を乗っ取ったAIは男の意識をVRの中に押し込んでしまう。これは「マトリックス」の世界と同じである。男は仮想現実の中で、殺された妻と一緒に、自由に動く体で幸せに過ごしている。彼にとって、妻のいない現実と妻がいる仮想現実はどちらが幸せなのだろうか?五感をすべて使える仮想現実と現実に違いはあるのだろうか?このようなことを考えていると「生きる」とはどういうことなのか、生きている意味とは何かなど哲学的な問題となってくる
シンギュラリティもVRもおそらく実現の可能性は低いと思う。しかし、そういったことを考えることが、いまわれわれが抱えている様々な問題へのきっかけとなる気がする。