アバウトタイム ネタバレ

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 ティムは21歳の誕生日を迎えると、父から、一家に生まれた男た
ちはみんなタイムトラベラーだということを知らされる。いきなり告げられた能力に戸惑いつつ、恋人をゲットするためにタイムトラベルをするようになる・・・
 この映画はSFではない、ファンタジーだ。だから、科学的にタイパラドックスについての詰めの甘さを指摘したところで意味はない。素敵な魔法の力をもらった父子の話とおもえばいい。
 しかし、欧米の映画や小説には父と息子の関係を扱ったものが多い気がする。父親から過度の期待をされて苦しむ息子の話、父親から受け継がれた血統を巡る話や、父親を越えようともがく息子の話など様々だ。「理由なき反抗」「スーパーマン」「ゴッドファーザー」など枚挙にいとまがない。女性の社会進出が進んでいる欧米のわりに、意外と男系家族主義の話が多い。
 さて、話を本作に戻そう。タイムトラベルの力をもった父親の使い方は、同じ日を二度繰り返すというものだった。初めは、一日一日をただ普通に生きる。それから、その毎日をもう一度、全く同じように過ごしてみる。最初の時は緊張や心配で世界がどんなに素晴らしいかわからないけど、二回目はそれに気付くのだ。だが、ティムは別の使い方?を考えた。それは、タイムトラベルを使わないというものだ。二回目のチャンスはないと思って人生を生きるということだ。劇中で彼が言う
「僕たちは皆、人生の毎日を一緒にタイムトラベリングしている。僕たちができることは、最善を尽くしてこの素晴らしい旅を大切にしていくことなんだ。」
 これが、この映画のすべてといってもいい。僕等はみんなタイムトラベラーだ。でも、過去に戻ることはできないし、人より早く未来へ行くこともできない。一歩一歩、一定の速度で進む時間の中を旅していくだけだ。だからこそ、今この時を大切にしなくちゃいけない。そんな当たり前のことを伝えるために、こんな素敵な映画を作るなんて、リチャード・カーティスに脱帽だ。
 これ以外にも印象に残った場面に結婚式での父親のスピーチがある
「私の息子は誠実な心をもった、優しい男です。私は人生で特に誇れることなどあまりありませんが、息子の父であるということをとても誇りに思います。」
このあまりにも謙虚でいて、息子を愛する気持ちが強く伝わるセリフが自分も使ってみたい。そして、父親が子供のまま大きくなったような変わり者のデズモンド叔父さんに言うセリフも後から効いてくる。
 「君のお父さんは良くないみたいだ。癌なんだ」 

「僕はそのことがとっても気にくわないんだよ。君のウエディングで、君のお父さんは僕を愛しているって言ったんだ」

「あの日が僕の人生で最高の日だったんだ。今日は多分最悪の日だよ」
 そして、癌に侵された父親とタイムトラベルで何度も訪れていたティムとの最後のシーンがたまらなくいい。父親と少年時代のティムが手をつないで海岸を歩くのだ。僕にも息子がいるので、痛いほどわかる。既に自分よりはるかに大きくなってしまった息子が小さな手で僕の手を握りしめて歩いていた時間はたまらなく愛しい。出来ることなら、もう一度だけあの日に戻りたいと思うこともある。でも、それは決してかなうことのない夢だ。しかし、僕は後悔などしてはいない。僕はあの時の小さな手の感触を決して忘れることはないから。