初・登山

  世の中、登山ブームである。「今さら何を」と言われそうであるが、私の周りの人々もかなりの割合で山にのめり込んでいる。休日になると山へ出かけていき、LINEで登頂を知らせてくる。たまに3,4人で泊まりで3000m級の山へ出かけていくこともある。「山はいいよ!」「今度行かない?」などと言われることも度々あったが、なんとなく重い腰が上がることはなかった。

 しかし、今回山の日ということで、ガイド付きの初級者登山ツアーという企画があったので参加してきた。食わず嫌いもよくないし、趣味の一つでも作ろうかなという気持ちであった。靴が重要だと言うことで、靴だけはトレッキングシューズを購入して行った。当日は8人ほどのグループで、60代のリタイア組の男女がほとんど出会った。山登りの経験がそこそこあるものも、体力的に高い山は登らないということであった。

 さて、登り始めて数十分した頃だろうか、こぶし大の石ころがゴロゴロしている山道が延々と続いていくことに飽きてきた。そして、普段、運動もほとんどしていないのでかなり疲れてもきた。ガイドさんも気がついたのか、一番前に来るようにと言われた。どうやら体力的に一番厳しい人が先頭のガイドさんのすぐ後につくようであった。それからひたすら歩いた。膝は痛くなるし、腰も痛い。おばさん方がおしゃべりをしながら歩いている一方で、一言も発せず、下ばかり向いてひたすら歩いた。時折吹く谷風が涼しく気持ちよかったが、その余韻に浸ることもできないくらいだった。

 2時間くらいたって、ようやく頂上にたどり着いた。「ふつうは80分くらいのコースです」などとガイドさんに明るく言われてしまった。頂上の景色は確かに素晴らしい。山々が連なり、緑が本当にきれいだった。だが、この景色が2時間の苦行に割に合うかと言われると少し疑問だった。こんなところで使うこともおかしいが、費用対効果としては、あまりバランスがとれていない気がした。

 そして、下山であるがこれまた膝にくる。一歩地面につく度に膝に痛みが走るのだ。「下りは楽だよねえ」などと行っているおばさん方を尻目にこれまた一言もしゃべらず下山していった。

 降りてから、ガイドさんに「山はどうでしたか?」と聞かれたので、「すごく楽しかったです。また登りたいです」などと社交辞令を言ってしまったが、正直言って次に登りたいかといわれると微妙である。山にいったん登ると虜になるというような話も合ったが、どうやら私の場合にはそれが当てはまらなかったようだ。単調な作業を地道に行うことが極めて苦手な自分には合っていないのかなあと、趣味になる可能性が低くなってしまったことを少し残念に思う。しかし、一度だけで判断してもいけないので、もう一度だけ別の山に登ってみることにする。